色絵月梅図茶壺(重要文化財、東京国立博物館蔵)は、仁清(生没年不詳)の代表作の一つとして名高い。仁清の作品に示された特徴は、計算され尽くした意匠性であるといわれる。
一方、いわゆる桃山茶陶の中には、焼成時に生じる偶然性を積極的に取り込んだ一群がある。辻惟雄氏はこれを「作為と偶然性の戯れ合い」とし、中国陶磁との比較において、日本陶磁の特色の一つとしている。この「作為と偶然性の戯れ合い」は、仁清の作品の上にも認めることができる。
色絵月梅図茶壺は、本焼きの際に窯の中で生じた焼成雰囲気の影響により、ちょうど片身替のように、半面の釉薬が青みを帯び、もう半面が赤みを帯びている。仁清はおそらく、偶然に生じた釉薬の色の変化の結果を見て、赤みを帯びた面に梅樹を、青みを帯びた面に大きく月を配する月梅の図を構想したに違いない。これにより、色絵月梅図茶壺には、類品の中から一歩抜きんでた、ドラマチックな効果が生み出されている。
仁清の創意は、器面の一部に釉薬を流し掛け、自然を装いつつも意識的に文様的効果を狙っている「掛け切り手」などにおいて、その本領が発揮されているといえる。素材の特性上発色が不安定であり、硫化により黒変しやすい銀彩を多用するのも、同様の文脈で説明がつくのではないかと思われる。仁清は、けっして単に二次元の絵画の下絵を三次元の立体に移し替えるデザイナーではなく、あくまでも素材と語らう陶工であった。