龍濤存星輪花盆
著者: 今井 敦(東京国立博物館)
出版者: 國華社
掲載誌,書籍: 國華 第1364号
2009年 6月 20日 公開
関連研究員(当館): 今井 敦 
データ更新日2020-10-08
宝珠を追う右向きの五爪の龍と雲文、そして海中に聳える巌と波濤が存星の技法であらわされており、底裏中央に「大清康煕年製」の楷書三行の填金銘がある。清時代康煕年間(1662~1722)に官営工房で宮中向けに作られた漆器の希少な作例である。文様表現には、官窯磁器をはじめとする清朝の宮廷向けの工芸品にみられる特色、すなわち整理が進んだ明快な文様構成、抑制された色彩感覚といった優美で理知的な作風が、すでに完成された姿であらわれている。
付属の塗箱の蓋表には、「存星造」「香盆」の金粉字形があり、箱書を小堀権十郎政尹(1625~1694)の手であるとする古筆了意(1751~1834)の極が添えられている。したがって、日本伝世の清朝工芸という点でも注目される。極に従うのならば、日本への請来の下限は1694年となり、清時代の宮廷向け工芸品の様式の成立過程を考えるうえでも重要な作品である。